最近は宗次郎をよく聴く。彼の音楽はすばらしい。ある時は馬にまたがった勇猛な武士が風を切り、広大な大地を颯爽と行く姿を思わせ、またある時は夜明けの朝日を背景に力強く進む大型の船を思わせる。そこには常に自然があり、どこかに置いてきぼりにしてきた情景が目に浮かぶ。少年時代に大分県の田舎で見た夏の夕暮れの光景。満点の星空に囲まれた美しい屋根が日本の南半分全てを覆い隠さんばかりの夜空だった。冬の空はこんな都会にいても、よく見えるのに田舎の夜空は比べものにならないくらいだった。
 これを聴いた人はまた明日からそれぞれの日常の続きに帰っていく。まさに理想と現実世界とを音響一つ隔てた、耳で聴く彫刻だと思った。音楽とはなんだろう。時に人を感傷的な気分にさせ、楽しませ、愉快にさせる。忘れかけた日本の原風景がオカリナにマッチする。オカリナ一本でフルートにも尺八にもなる。オカリナ一本で世界を巡ることができる。それは僕を想像上の旅へといざなう。
 おそらく、旅を楽しむ余裕がない人はどこかでその代替手段を探すのだろう。読書好きならジュール·ヴェルヌにいくだろう。置かれた状況や程度差によって異なるが、人は誰でもどこかに行きたいと思う。知らない世界へ。それこそ出来れば時間や空間を飛び越えてまでも。音楽はすべてこれらを可能にする魔法でもある。出来れば、もう少しすれば本当の旅に出ようかと思う。