この世の中、墓場まで持っていってもいいと言えるアルバムは本当に数少ないと思う。俺には三枚ある。Tony WilliamsのEmergency!、John McLaughlin、Miles Davis。なかでもTony Williamsはすこぶる。よくこれがヘビーロックだとか言う人が多いがそんなことはない。これはれっきとしたジャズであり、その後いかなる変形を遂げようともやはりジャズである。音質はしょうがないにせよ、作品自体のクォリティーの高さは色褪せることない。
 当時の暗く重苦しい60'sを、ヴェトナム戦争を作品か何かのかたちにしたものを、現在懸命に探している。善くも悪くも、熱い情熱を持っていた当時の若者たち。。ひとつにはヴェトナム戦争をめぐる反戦、非暴力一色のムードがあった。ひとつになれることがあった。でも、いまはそれがない。。別に左がいいと言っているのではなく、今のわれわれには共通の話題がない。われわれに比して当時の若者らにはほとばしる情熱があった。そういう努力が徒労に終わったかと否かは不問に付すこととして、情熱があった。今は関心事がバラバラで、みんな違う顔を向いている。だから何を考えているのかわからないと互いの関係に亀裂が生じる。
……まあそれはそうと、とにかくこのTony Williamsだけはすごい。混沌をいっぱい詰め込んだホクホクの魂が、情熱が浮かんでくるような作品だ。